落ちゲーの元祖・テトリスは落ち物パズルの王道でみんなが知ってる定番ゲームです。
シンプルながら多くの人を魅了する中毒性があり、誰もが一度はプレイしたことがあるのではないでしょうか?
古くはアーケード版、一躍有名になったゲームボーイ版では大ヒットになりました。
日本中でテトリスブームが巻き起こっていた最中、実は、商品も完成し発売の広告まで出していたにも関わらず寸前で未発売になってしまった幻のテトリスが存在しました。
知る人ぞ知る、複雑な事情により市場に流通することのなかった「メガドライブ版テトリス」です。
もし発売されていたら、家庭用ゲーム機のシェア争いは違った結果になっていたかも知れないとも言われており、ゲーム史にも大きな影響を与えたとされる幻のソフトです。
数十年経った後も、何かと話題を提供し続けている幻のメガドラ版テトリス。
発売直前で販売中止になってしまったのはなぜか?
そして、セガのメガドライブではなく任天堂のゲームボーイで発売されることになった理由とは?!
これらの一連の経緯は、テトリス事件としてゲームマニアの間で語り継がれているのです。
テトリス事件とは?
テトリス事件とは、テトリスに関する複雑な版権を巡る2つの事件のことです。
ひとつはメガドライブ版が幻となってしまった原因でもある、いわゆる「セガVS任天堂」と言われている権利関係の事件です。
もうひとつは、アリカがすでに開発していたプレイステーション版「テトリス・ザ・グランドマスター」がライセンスを受けることが出来なくなり、開発停止及び発売が無期延期となってしまった事件です。
「セガVS任天堂」テトリス事件の真相
テトリスは、旧ソ連のアレクセイ・パジトノフ博士が開発したパズルゲームの元祖です。
アイデアのきっかけは「ペントミノ」と呼ばれる箱詰めパズルの知育玩具で、テトロミノとテニスを掛け合わせて『テトリス』と名付けられました。
権利の又貸しが横行!!複雑な権利関係が泥沼化
1984年当時の旧ソ連は冷戦下の状況で、プライベートビジネスが禁止されていました。
共産主義国家だったということもあり、何かを発明しても個人が権利を所有することは出来ませんでした。
その為、テトリスの版権は旧ソ連が所有することになり、大元の権利を所持していた国務機関アカデミーソフトから国営の外国貿易協会(ELORG)に移され一元管理していました。
ごまメモ
ELORGはテトリスの為に創設されました。テトリスが世界的大ヒットしたにも関わらず、パジトノフ個人は当時、給料以外の報酬は一切受け取っていなかったそうです。
(後にアメリカで自身の会社を立ち上げています)
オリジナル版テトリスの動画
次から次へ又貸しされていく仮のライセンス
ELORGから最初にライセンスを受けたのがハンガリーのアンドロメダソフトでした。
次にイギリスのミラーソフトとアメリカのスペクトラム・ホロバイト、そしてアメリカのアタリゲームズ、その子会社テンゲン、の順に又貸し状態でライセンスを受けていました。
ポイントは、この時アンドロメダソフトがライセンスを受けていたのは、「PC用のみ」(IBM互換機のみ)の権利だったということです。
しかし、アンドロメダソフトは「後からライセンスを得れば問題ない」という安易な考えで、PC用以外のテトリスの権利までも、勝手にサブライセンスという形で他社へ認可していたのです。
アンドロメダソフトによるこの行動が、のちに権利関係を泥沼化させる元凶となりました。
ごまメモ
実際は、当初の契約の内容は「コンピューター用」という曖昧な定義だったのが、のちに「PC用」と限定されたらしいですが、当時のソ連が相手ということで権利交渉が難航していた為、正確な権利内容を誰も把握していなかったことが版権が複雑化した大きな要因のようです。
セガと任天堂の運命を分けたのは ”ライセンス元”
当時アーケードゲームのテトリスが大ヒットしていたセガですが、セガはテトリスのライセンスをテンゲンから受けていました。
テンゲンから受けたライセンスを本物だと信じていたセガは、1988年に発売したテトリスのアーケードゲーム大ヒットの勢いに乗り、翌年の1989年にメガドライブ版テトリスの開発を発表し、発売に向けて準備を進めていました。
正規のライセンスを求め旧ソ連に乗り込んだ任天堂
同じ頃に任天堂もゲームボーイ用のテトリスを販売しようと動き始めます。
任天堂は携帯ゲーム機版のライセンス取得の為、独自に調査していくうちに上記のような絡まったライセンスの関係を知り、テンゲンの契約に不備があることを見つけます。
そして、任天堂と契約を結んだBPSのヘンク・ロジャース氏が旧ソ連まで行き、直接ELORGと交渉を行いました。
最終的に、任天堂はテトリスの ”家庭用ゲーム機全般” に対する独占ライセンスをELORGから正式に取得したのです。
ごまメモ
当時のソ連に直接交渉するのはすごいことでしたが、任天堂側は初の携帯ゲーム機版の権利が欲しかった為、直接動くしか方法はありませんでした。動いてみたら、実は権利が曖昧で結果的に家庭用ゲーム機の権利を全て獲得してしまったということになります。
ELORGブチ切れ!! ほとんどのライセンスが無効化
ELORGは任天堂からライセンスの申込みを受けた時に初めて、自分達が把握していないところでテトリスが発売されていたことを知ったそうで、これに激怒し、アンドロメダソフトとの契約を即刻打ち切り、更にテトリスに関する全てのライセンスを剥奪してしまいます。
この時点で、アンドロメダソフトを大元として受けていた全てのライセンスが無効となってしまいました。
ちなみに、1988年にファミコン版のテトリスを発売していたBPSも、セガと同じくテンゲンからライセンスを得ていた為ライセンスを失うことになりましたが、新たに任天堂からライセンスを受け、そのまま販売を継続することが出来ました。
ごまメモ
携帯ゲーム機用の版権だけ欲しかった任天堂は、BPSのヘンク・ロジャース氏がELORGとの交渉に貢献したので、功労者であるBPSに家庭用ゲーム機の版権を独占でサブライセンスとして与えたそうです。
権利を巡る裁判でも任天堂が勝利
任天堂がテトリスを発売したことで、テンゲンは著作権侵害として任天堂(ニンテンドー・オブ・アメリカ)相手に訴訟を起こします。
逆に任天堂はテンゲンが任天堂の著作権を侵害しているとして反訴を起こしました。
最終的に、サンフランシスコの連邦地裁は任天堂の訴えを認め、テトリスの独占的製造・販売権に関して、任天堂側に権利がある略式判決を下し、テンゲンは敗訴します。
これのあおりを受けて、テンゲンからライセンスを受けていたセガのライセンスも無効となり、すでに生産を終えていたメガドライブ版テトリスの販売を断念し、発売目前だった商品の破棄を余儀なくされたのです。
一方で、家庭用ゲーム機版のテトリスの権利を独占することになった任天堂は、ゲームボーイ版のテトリスを424万本も売り上げ爆発的なヒットを記録します。
このテトリスの大ヒットは、ゲームボーイ本体の普及にも大きく貢献することになりました。
ごまメモ
ゲームボーイ版テトリスには、AタイプのBGMが「メヌエット」になっているレアな初期バージョンが ごくわずかに存在します。
その後、1996年にザ・テトリス・カンパニーが設立され、同社が版権管理やライセンスの手続きを行うようになり、複数の会社からゲームが発売されたことから、従来の「独占販売権を得る」ことはなくなりました。
謎の方針により幻となったアリカ版グランドマスター
2つ目の事件に関しては、1999年にザ・テトリス・カンパニーが突然「『テトリス』の商品化は1プラットフォームにつき1社のみとする」という方針を打ち出したことが始まりです。
この方針により、アリカが発売を予定していたPlayStation版『テトリス ザ・グランドマスター』が発売中止を余儀なくされました。
しかし、方針が発表されたその後も「1プラットフォームで2社以上から発売されている」現状は変わっておらず、アリカの『テトリス ザ・グランドマスター』が発売中止になった理由と目的についての事実関係は未だ不明のままです。
セガ版のテトリスに続き、アリカ版のグランドマスターが発売中止になり、アーケード版でゲーマーに対して非常に高い評価を受けているテトリスに限って、版権の問題でコンシューマーへの移植が実現していない皮肉な状況がファンの間では悔やまれています。
「1プラットフォームで2社以上から発売」されているテトリス
以下のタイトルが1999年以降も「1プラットフォームで2社以上から発売されている」家庭用ゲームソフトです。
PlayStation (PS)
- 1999年3月18日 『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』 発売元:カプコン
- 1999年12月16日 『ザ ネクスト テトリス デラックス』 発売元:BPS
- 2000年7月19日 『SuperLite1500シリーズ ザ・テトリス』 発売元:BPS/サクセス
- 2000年8月10日 『テトリス with カードキャプターさくら エターナルハート』 発売元:アリカ
PlayStation 2 (PS2)
- 2003年12月18日 『SuperLite2000 パズル テトリス〜キワメミチ〜』 発売元:THQ/サクセス
- 2006年9月28日 『セガエイジス2500シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』 発売元:セガ/開発協力:エムツー
PlayStation 3(PS3/PLAYSTATION3)
- 2011年7月6日 『テトリス』 配信元:エレクトロニック・アーツ
- 2014年2月6日 『ぷよぷよテトリス』 発売元:セガ
PlayStation 4(PS4)
- 2014年12月4日 『ぷよぷよテトリス』 発売元:セガ
- 2015年6月10日『テトリス アルティメット』 発売元:ユービーアイソフト - 配信中止
- 2018年11月9日 『TETRIS EFFECT』 発売元:エンハンス
PlayStation Vita
- 2014年2月6日 『ぷよぷよテトリス』 発売元:セガ
- 2015年6月2日『テトリス アルティメット』 発売元:ユービーアイソフト - 日本未発売
Xbox 360
- 2005年12月 『テトリス ザ・グランドマスター エース』 発売元:AQインタラクティブ
- 2007年3月19日『Tetris Evolution』 発売元:THQ - 日本未発売
- 2007年10月3日 『Tetris Splash』発売元:Tetris Online, Inc./Microsoft Game Studios - 日本未配信
Xbox One
- 2014年12月4日『ぷよぷよテトリス』 発売元:セガ
- 2015年6月10日『テトリス アルティメット』 発売元:ユービーアイソフト - 配信中止
ニンテンドーDS (DS)
- 2006年4月27日 『テトリスDS』 発売元:任天堂
- 2010年8月5日 『テトリスパーティプレミアム』 発売元:ハドソン
ニンテンドー3DS (3DS)
- 2011年10月20日 『テトリス』 発売元:バンダイナムコゲームス(当時の社名)
- 2011年12月28日 『テトリス(バーチャルコンソール版)』 発売元:任天堂
- 2014年2月6日 『ぷよぷよテトリス』 発売元:セガ
- 2014年11月6日『テトリス アルティメット』 発売元:ユービーアイソフト - 日本未発売
Nintendo Switch、Nintendo Switch Lite(スイッチ)
- 2017年3月3日『ぷよぷよテトリスS』 発売元:セガゲームス(当時の社名)
- 2019年2月14日 『テトリス99』 発売元:任天堂/開発協力:アリカ
ごまメモ
ニンテンドーDSとニンテンドー3DSにおいては、新しいテトリスが発売されると旧作の生産とデジタルのダウンロード販売が終了するので、同時に複数のテトリスが発売中の状態にはなっていません。
もっと詳しくはこちら
幻のメガドライブ版テトリスがサイン入りで1億円?!
2011年、海外のオークションサイト「ebay」に、 “アレクセイ・パジトノフ氏のサイン入り「メガドライブ版テトリス」” が100万ドルで出品され、注目を集めました。
出品者のshinsnk氏の説明によると、ソフト自体は4年前に1万1000ユーロ(約120万円)で落札したものだそうです。
そして、2008年にアレクセイ氏がスペインを訪れた際にこのソフトに直接サインを書いてもらったとのことです。
”サイン入りメガドライブ版テトリス” 落札価格は約1億1000万円!!
サイン入りのメガドライブ版テトリスは、なんと100万ドル(日本円で約1億1000万円)で落札されました。
発売前に廃棄されたはずで、モノ自体が幻とされている超レアソフトであることに加え、開発者本人のサイン入りということで前代未聞の価格になったのでしょう。
なぜ未発売のソフトが市場に流出?
メガドライブ版のテトリスは結果的に販売中止になってしまいましたが、当時、既に完成済みだったカセットはセガの一ヵ所に積まれているという噂が流れていて、実際に出荷待ちだったカセットが大量に保管されていたそうです。
ほとんどのカセットは販売中止に伴い廃棄されてしまったわけですが、廃棄処分の際に1カートン分の10本(最低ロット)だけ足りなかったらしく、この消息不明の10本が市場に出回ってしまったと考えられます。
消息不明の10本のメガドライブ版テトリスの行方
その後、1本は海を越えて台湾に渡っていたようで、台湾製の海賊版がセガロゴをバグらせて消した状態で見つかり、秋葉原のファミコンショップでプレミア価格で販売されました。
その他に「まんだらけ中野店」で2本取扱いがあったそうです。(1本は販売され、もう1本は非売品としてショーケースに飾られているそうです。)
そして上記のebayのオークションで出品されたサイン入りが1本。
更にソニックの生みの親である中裕司さんが所持しているそうです。
この5本が全て本物だとすると、とりあえず現存する内の半分は市場に出てきたみたいですが、果たして残りのあと5本はどこに眠っているのでしょうか・・・?
ごまメモ
まんだらけで販売された時の価格は25万(26万?)だったそうで、買い逃して悔やんでいるコレクターさんが多いそうです。不確かな情報ですが、噂ではまんだらけで取り扱った2本を持ち込んだのは同じ人?らしい??です。
箱と説明書だけで61万円?! メガドライブ版テトリスがヤフオクに登場!!
日本では、2016年にソフト無しのケースと説明書のみのメガドラ版テトリスがヤフオクに出品され話題になりました。
¥1,000 からスタートし、入札件数は合計189件。
ソフトが付いていないにも関わらず、最終落札価格はなんと ¥613,345 でした!!
しかし、2006年9月発売のPS2版『SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』にメガドラ版テトリスが収録された際、ギャラリーモードでパッケージやマニュアルが鑑賞できる状態だったので、そのデータをプリントアウトした偽物では?!という説もあるようです。
メガドライブ版テトリス その後
悲しき運命により、長らく日の目を見ることの無かったメガドラ版テトリスですが、2006年9月発売のPS2版『SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』に収録されることになりました。
このソフトには、当時の最新ルールが適用された『テトリス ニューセンチュリー』の他に、元祖ともいえるアーケード版『テトリス』、また「テトリス」というタイトルが付いていなかったことからライセンス問題があった後もリリースができた『フラッシュポイント』と『ブロクシード』も収録されています。
本来なら、幻だったメガドライブ版の完全収録は本作の目玉になりそうなものですが、発売中止の経緯からネガティブな印象が強いせいか、存在が目立たないばかりかプレイするには隠しコマンドを要するなど、マニア向けの仕様だったようです。
ごまメモ
収録に関してもパッケージの裏面にちょこっと載っているだけで、他のタイトルは取扱説明書内に多角的な充実した情報が掲載されていましたがメガドラ版は無し。更にこのメガドライブ版をプレイするには、隠しコマンドのようにメニューで機種を「MEGA DRIVE」に合わせる必要がありました。
ただ、ゲーム本体以外に、パッケージや説明書が鑑賞できる「ギャラリーモード」が搭載されており、メガドラ版テトリス目当てのファンにとっては濃い1本だったようです。
大人の事情で大々的にはアピール出来ないけど、ファンには十分に楽しんでもらいたいという製作者の葛藤が垣間見れます。
メガドライブミニにサプライズ収録されたテトリス
2019年にメガドライブミニの発売が発表されて以来、他の収録作品が紹介されていく中で1、2を争う期待が持たれていた「テトリス」。
最後のサプライズタイトルとして発表され、待ち望んでいたファンを歓喜させました。
今回収録されたテトリスは、幻のメガドライブ版をそのまま移植するのではなく、再度「アーケード版」を完全な状態で再現し、新規移植し直したんだそうです。
これにより、2006年に発売された『SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』に収録されたメガドラ版テトリスを上回るアーケード版テトリスを体験することが可能になりました。
元々、未発売になったメガドラ版のコンセプトも「アーケードの移植が家庭で遊べる」というものでしたから、ミニではありますが、約30年という月日を経てついに「メガドライブ×テトリス」が実現したということになりますね。
まとめ
ゲーム史に残る有名なセガと任天堂によるテトリス事件。
セガ派のゲーマーが任天堂を毛嫌いするようになった決定的な出来事だったといわれていますが、当時の事実関係の真相を知ると、これは完全なセガ側のミスであり、セガ自身もそれを認めているそうです。
セガの詰めの甘さは以後ドリームキャストまで受け継がれることになりますが、正規ライセンスを求め当時のソ連と直接交渉した任天堂の方がやはり一枚上手だったのかもしれません。
一部では任天堂のせいでセガの著作権侵害がバレたといわれているみたいですが、そもそも任天堂も最初は複雑な権利関係を知らずに動いていたわけだし、セガも著作権侵害していたつもりは無く騙されていた被害者なわけですから、「セガVS任天堂」という構図はちょっと違う気もしますね。
果たして、もしメガドライブ版テトリスの発売が当時実現していたら、現在のゲーム業界の勢力図は違った形になっていたのでしょうか・・・。
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